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五ヶ所高原は熊本県境に位置する広大な草原。県内ではここにだけ生息する希少種が多く見られます。県の野生動植物種の重要生息地に指定されており、地域住民が保護活動に努めています。
五ヶ所高原の景勝地、三秀台に立つと360度の大パノラマが広がります。遠くには祖母山、久住山、阿蘇山の山並み。五ヶ所高原は標高800mにあり、火山の影響を受けた古い地質や高冷地気候が希少種を育んできました。
ヒメユリは五ヶ所高原を日本での分布の南限とする植物で、県内唯一の自生地となっています。その希少さから愛好家による盗掘が多く、祖母傾国定公園で自然公園指導員をしていた甲斐英明さんは盗掘の監視を行ってきました。しかし、昭和60年代から減少が目立つように。甲斐さんは、原因はシカの食害にあると気づきました。シカがヒメユリのつぼみを食べていたのです。甲斐さんは、地元の自然保護推進員らとともに保護活動をはじめました。
ゴマシジミとヒメシロチョウの2種のチョウも、県内では五ヶ所高原にだけ生息しています。甲斐さんが宮崎昆虫調査研究会の岩﨑郁雄さんと調査を行ったところ、これらのチョウも激減していることが分かりました。ゴマシジミの食草であるワレモコウとヒメシロチョウの食草であるツルフジバカマもシカの食害に遭っていたのです。草原の荒廃が進んでいました。
祖母山のブナの原生林は昭和30年代の伐採により減少。植生の変化により食べるものが減り、野生動物が里山に現れるようになったと、五ヶ所高原で生まれ育った甲斐さんは感じています。猟師の数も減少し捕獲は追いつかず、現在もシカの生息密度は高い状況です。
2013年、甲斐さんの呼びかけで守る会を結成。名称の「ゴマ姫」はゴマシジミとヒメシロチョウ、ヒメユリからとったものです。2014年、高原内のヒメユリ、ゴマシジミ、ヒメシロチョウの生息地に、750mにわたってシカの侵入を防ぐための防護ネットを設置しました。現在は設置場所を広げ、高原の森林化を防ぐための草刈りも欠かしません。ヒメユリに加え、2014年にはゴマシジミとヒメシロチョウが県の「希少野生動植物」に指定されました。同会の活動も知られるようになり、盗掘や捕獲は減ってきました。
五ヶ所高原を含む祖母・傾・大崩山系周辺地域は2017年、ユネスコエコパークに登録されました。同会はユネスコエコパーク推進協議会に協賛し昆虫教室も開催。五ヶ所高原をフィールドに、町内の小学生を対象として虫の観察や標本づくりを行う人気の教室です。
甲斐さんは地道な保護活動を通じて、一度減少した動植物を増やすことの難しさを実感しています。しかし、継続は力なりと信じ、「できることを続けていく」と力を込めます。現在20名いる会員の高齢化が課題。五ヶ所高原の魅力を知った地域の子どもたちが将来、その大切さに気づいてくれることを願い、ふるさとの自然を次世代につなぐため、活動を続けています。
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